卒業して10年間、東京女子医大病院で臨床研究に従事し、その後10年間、武田病院で循環器の救急治療を経験し、今年5月で開業して16年目になりました。大学、病院勤務中は主治医として、患者さんが現在罹っている病気に対して全神経を集中して治療に専念してきました。今思うと、その患者さんを1人の人として診る余裕がなかったような気がします。開業してからは、患者さんを体の病気のみならず心の部分もふくめて、またその家族の思いを察しながら、家族全体として診ることができるようになったと感じます。
父の死、長年一緒に生活をともにしてきた義父の死を経験し、家族の患者に対する心配、不安、亡くなったときの悲しみがどれほどのものかがよくわかりました。患者さんならびにその家族により優しく接することができるようになった気がします。また私自身もいろいろな病気になり、自分が患者の立場になり多くの医師に診てもらう機会が増えました。そこで感じたことは、『本当にうちとけて話ができ、安心して任せられる先生」がすくないことでした。
医療技術は日進月歩で開業しているとなかなか追いつけませんが、その分専門の先生への紹介で補えます。しかしここで大事なことは、いわゆる世間でいういい病院を紹介するのではなく、医療技術が高いことはもちろんのこと、人間的もあたたかい、話しやすい先生を紹介することです。このためになるべく直接先生と話をし、自ら確かめ、また日々情報を張り巡らせています。
次男は医師4年目、3男は医学部3回生、4男は目下医学部をめざして受験勉強中です。最近は医学部の勉強量も私の時代とくらべて数倍も多く、国家試験合格率を上げるため、大学も熱心に指導されているようですが、医学的知識より大事なことがおろそかになっているような気がします。息子たちには人に対する思いやりの強い医師になれるよう、すこしずつ教えていければと思っています。